或る世界

2020年7月

四本目だけ

そろえた先端の一つだけを、壁から離した

机の隅に置いた機器の後ろで、四本のアンテナがほぼ同じ高さに並んでいた。そのうち一つだけが壁へ近く、先端の黒い影を白い壁に落としている。ケーブルを抜かないよう、根元へ指を添えた。

少し動かすだけで、アンテナは別の方向を向く。見た目には、壁から離れた先端と、残った三本の列に小さな隙間ができるだけだった。画面の表示も、机の上の灯りも変わらない。何かが届く先は、ここからでは確かめられなかった。

それでも壁へ寄せたままにするより、こちらへ少し開いた方がよい気がした。根拠は形の中にはなく、壁の向こうにあるはずの部屋や、さらに離れた場所へ置かれる。手元では、一本の先端の角度しか変えられない。

指を離すと、アンテナはその角度で止まった。四本は同じ方を向かず、少しずつ空いた方へ伸びている。机へ戻る途中、壁に落ちていた細い影だけが、さっきより短くなっていた。

水面の外側

竿先は遠く、手元の回転だけが止まっていた

リールを二度回したところで、手を止めた。竿の先は水面のずっと先を指しているが、糸がどこへ入っているかは逆光の中で分からない。巻けば近づくものがあると思い、親指をハンドルから離した。

対岸には塔や煙突が並び、橋も水の上を横切っている。遠いものは輪郭を持ち、日差しを受けた水面には小さな光の列ができていた。そのあいだにあるはずの細い線だけが、目を凝らすほど見えなくなる。

竿先がわずかに下がった気がして、もう一度手を掛けかけた。けれど風か、水の揺れか、糸の重さかは決められない。見えない先を急いで答えにすると、巻く速さだけが先に決まってしまう。

しばらく待つと、足もとの水に丸い輪が一つ広がった。糸の先とは違う場所だった。私はリールを回さず、その輪が柵の影へ溶けるまで見ていた。