或る世界

2020年2月

  1. 光を遮る細い影が、一つの明るさへ間隔を作る

    灯りを暗さで分ける

  2. ひとつを追う目が、壁の広さへほどけていく

    青を見失う

  3. 意味を閉じた文字の影が、光の方角だけを開く

    文字のとなりの日時計

  4. 店の境を越えるたび、同じ暑さに別の風が触れる

    風を一軒ずつ

  5. すべての道を見渡す目は、どの分岐にも立っていない

    全部見えて、どこにもいない

  6. 近づくほど、空の形が入口へ変わっていく

    空の入口

  7. 振り向くだけで、同じ枠の中の時間が変わる

    額縁には表が二つ

  8. 壁を渡った音だけが、鳴った車より高くなる

    クラクションは上へ逃げる

  9. 揺れる座席の外に、傾かない一本がある

    船だけを傾ける

  10. 真下へ寄るほど、丸い中心は灯りへ隠れる

    中心から半歩

  11. 一枚ずつの黒が、同じ色の続きを受け取る

    継ぎ目を渡る花火

  12. 雲が通るたび、屋根の端だけ空へほどける

    白い継ぎ目

  13. 離れる荷物と流れる柱が、別々の速さを見せる

    柱と荷物のあいだ

  14. 曲がるたび、海と山が同じ側へついてくる

    海を連れて曲がる

  15. 細い黒だけが、離れた輪郭を一つに保つ

    手と係留索

  16. 閉じた瞼の中で、白だけが少し遅れて消える

    まばたきの裏側

  17. 同じ雲の影が、窓の中では別の速さで離れる

    雲の連れはどれだ

  18. 見上げて失った向きを、足先で拾い直す

    足もとの正面

  19. 隠された輪郭の上で、金の瞼だけが開いている

    覆うための顔

  20. 包める大きさを越えると、空そのものが外側になる

    二つ目の覆い

  21. 飛び立った数だけ、塔のまわりに空が増える

    欄干から空へ

  22. 触れた形と、触れるたび消える形が並んでいる

    扉の横の手

  23. 同じ高さへ置くことで、二つの名が横に並ぶ

    高さをそろえる

  24. 汁の丸がほどけ、粒のあいだへ細く入っていく

    内側だけ先に濡れる

  25. 同じ風が、結び目ごとに違う順でほどけていく

    二枚目までの風

  26. 注いだぶんだけ、隠れていた量が高さを持つ

    見える方へ注ぐ

  27. 明るさの縁で、彫られた線がいちばん深くなる

    光の継ぎ目

  28. 停泊している間だけ、石の正面に窓が増える

    川岸に壁を足す

  29. 触れた場所を離れても、揺れは列の奥へ渡る

    肩を過ぎた音