或る世界

2019年10月

  1. なくなった部分を、残された形から逆にたどる

    残りものの献立

  2. 見えなくした境目ほど、越えないことを求めてくる

    縁はどこへ行った

  3. 近づける先と離しておく手を、細い一本がつなぐ

    火から一本ぶん

  4. たどり着くたび、次の答えが必要になる

    六〇二の先

  5. 動かないものにも、周囲が動けば別の名がつく

    浮くのはどちらか

  6. 読もうと触れたぶんだけ、残り時間も形を変える

    時計をひと口

  7. ひとつ取るたび、選べる世界が一種類ずつ消える

    一個で全部なくなる

  8. 同じ色でも、従うべき高さはひとつしかない

    足もとの赤信号

  9. 固く結ばない余白が、二つを長くつないでいる

    橋には遊びがいる

  10. 選んだものの重さが、残りの道順を書き換える

    帰り道は重い

  11. 役目のある明るさほど、外側を暗く残している

    照らす順番

  12. 叶う形を決めないため、願いには余白がいる

    願いの余白

  13. わからないままでも、合図ひとつぶん先へ進める

    会話より一歩だけ

  14. 色は先に答えを出すが、舌は最後まで待っている

    青いごはんの手前

  15. 濡れない場所から見た雨は、ひとつの景色になる

    雨は遠くで降っている

  16. 足を離したところから、水は別の道になる

    歩くことの終わり

  17. 同じ卓を囲むだけで、言葉のあいだが落ち着く

    黙っていられる場所

  18. 景色から消えたつもりの人ほど、足もとに残っている

    写っていない人

  19. 名前が変わる前の姿は、皿の向こうを近くする

    食材になる手前

  20. 待っているだけでも、向こうから品物が近づいてくる

    店がやって来る

  21. 離れるだけではない敬意を、掌から教わる

    触れてよい距離

  22. 通り抜けるための場所へ、わざわざ留まりに行く

    道に着く

  23. 遠くで役立つ目印ほど、着いた場所では消えている

    屋根の下では屋根が見えない

  24. 街全体が止まっても、止まらない幅が残っている

    止まっているのは誰か

  25. 読めた言葉の向こうで、自分の役まで先に決まっている

    読めてしまう入口

  26. 古いものほど、新しい光が届くまで静かに待っている

    いちばん新しい光

  27. 姿から失われたものより、立つ場所が役目を語り続ける

    顔のない門番

  28. 速度を手放した目に、道だったものの顔が戻る

    見るには停める

  29. 支える根と押し広げる根は、同じ方向へ伸びている

    木は遺跡を守らない

  30. 歩いたぶんだけ、知らない場所の外周が長くなる

    塀の長さだけ知っている

  31. 相手が替わっても、迎える手だけはほどかれない

    手をほどかない門