或る世界

2019年8月

  1. 近づいて失う輪郭も、知ることの一部になる
  2. 分けたあとにも、同じ皿の名残はつながる
  3. 消した跡のぶんだけ、空白の長さがわかる
  4. 水を飲むあいだだけ、急ぐ理由は岸に残る
  5. 数えなくなったところで、一匹ずつの輪郭は消える
  6. 行けない方向へ目を向けると、足元の迷いがほどける
  7. 同じ路地にいても、それぞれの夜は扉の内側にある
  8. ひと口では、器の中の全部を代表できない
  9. 引き返せない返事ほど、口では軽い
  10. 人のあとから、仕事場も同じ道を帰っていく
  11. なくなるのに、ひと口にも数えられない
  12. 意味を知らないものほど、正確に声を運ぶ
  13. ぴったりだった形ほど、あとから戻れない
  14. 曲がらなくても、道の途中は横へ広がる
  15. 頼ることは、歩く仕事をすべて渡すことではない
  16. たくさん動いた人ほど、一つの場所には薄く残る
  17. 選択肢は、差し出したものを受け取ってから始まる
  18. 待つあいだに、使えるはずの熱も冷めていく
  19. 終わりに近づくほど、ゆっくり進む技術がいる
  20. 誰の色でもない場所を、みんなの手順が形づくる
  21. 場所は元へ戻っても、最初の手つきまでは戻らない
  22. 知らないものへ足を止めるのに、名前はいらない
  23. 手を入れて初めて、こちら側の食事になる
  24. 名前を預けても、待つ時間だけは一人分ある
  25. 正確な数字ほど、かえって大きさを隠すことがある
  26. 動かない一点を守るため、見えない速さが要る
  27. 同じ呼び名にも、近づく道は一つではない
  28. 振り向かずに見た景色も、まだ背後にある
  29. 身体の外側にも、譲り合う幅が生まれる
  30. 届かなかった言葉は、まだ指示になれない