或る世界

正しい食べ方

手順を忘れたとき、食事はようやく始まる

食べ方のわからない料理に出会うと、私はまず周囲の人の手元を見る。どの道具を使い、何から口に運び、骨や殻をどこへ置くのか。注文した時にはなかった不安が、料理と一緒に運ばれてくる。

目の前の料理でも、スプーンを持ったあとで箸に替え、またスプーンへ戻した。大きな具をよけなければ底へ届かず、よけた具を置く場所もない。きれいに食べようとするほど、食事が始まらなかった。

器がいくつ並んでいても、手の届くものから口へ運べば、食事は始められる。しかし、食べ方のわからない料理を前にすると、その最初の一口までが遠くなる。

ところが、一口食べてしまえば、正しさは少し遠のく。熱い、辛い、うまい。その順で考えているうちに、隣の人の手元を見ることも忘れた。食べ終えた器はきれいではなかったが、最初に感じた不安も残っていなかった。