或る世界

手の届く順

食卓の中心は、ひと口ごとに場所を変える

いくつかの器が並ぶと、食べ始める前に少しだけ場所を直したくなる。手前の器を横へ動かし、奥の器を引き寄せ、箸を置く余白を作る。最初にきれいに並んでいた形は、ひと口目の前にもう崩れている。

食べ進めるうちに、器はまた動く。いま口へ運びたいものが近くなり、空いた器が遠くなる。食卓の中心は最初から決まっているのではなく、手を伸ばすたびに少しずつ移るらしい。

予定を立てるときには、大事なものから順に中央へ置きたくなる。しかし実際の暮らしでは、そのとき手を伸ばすものが、しばらく中心になる。重要さの順番と、手の届く順番は同じではない。

食べ終わった器を重ねると、卓上には最初より広い余白ができた。けれど、どの器が初めに中央にあったのかは、もう思い出せなかった。